遺言相続
平成30年 相続法改正について
平成30年 相続法改正について
特別寄与料の請求(新民法1050条)
新民法第1050条(新設)
被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした被相続人の親族(相続人、相続の放棄をした者及び第891条の規定に該当し又は廃除によってその相続権を失った者を除く。以下この条において「特別寄与者」という。)は、相続の開始後、相続人に対し、特別寄与者の寄与に応じた額の金額(以下この条において「特別寄与料」という。)の支払を請求することができる。
2 前項の規定による特別寄与料の支払について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、特別寄与者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。ただし、特別寄与者が相続の開始及び相続人を知った時から六箇月を経過したとき、又は相続開始の時から1年を経過したときは、この限りでない。
3 前項本文の場合には、家庭裁判所は、寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して、特別寄与料の額を定める。
4 特別寄与料の額は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価格から遺贈の価格を控除した残額を超えることができない。
5 相続人が数人ある場合には、各相続人は、特別寄与料の額に第900条から902条までの規定により算定した当該相続人の相続分を乗じた額を負担する。
1 概要
相続人以外の者の貢献に対する対応 | 備考 | |
---|---|---|
従来の対応 | ①被相続人の生前に同人と報酬を受ける旨の契約を締結 | 当事者間の心情により困難な場合がある |
②被相続人から遺贈を受ける | ||
③被相続人と養子縁組をする | ||
④特別縁故者の制度を利用する(相続人がいない場合) | 立証が困難な場合がある | |
⑤準委任契約に基づく報酬請求又は費用償還請求 | ||
⑥事務管理に基づく費用償還請求 | ||
⑦不当利得返還請求を行う | ||
新民法 | 相続人に対して、寄与に応じた金銭(特別寄与料)の請求ができる(新民法1050条1項) | 今後、「特別の寄与」等の解釈が問題になると予想される |
(1)改正の趣旨
被相続人に対して療養看護等の貢献をした相続人は、寄与分の制度(904条の2第1項)により、相続財産の分配を受けることができます。しかし、相続人以外の者は同制度の対象となっていません。
一般的に、相続人以外の者(例えば、被相続人の子の配偶者)が被相続人に対して療養看護等の貢献をするという事態はままみられますが、旧法下では、このような者に十分に報いることが困難であり、不公平ではないかとの指摘がありました。
一般的に、相続人以外の者(例えば、被相続人の子の配偶者)が被相続人に対して療養看護等の貢献をするという事態はままみられますが、旧法下では、このような者に十分に報いることが困難であり、不公平ではないかとの指摘がありました。
なお、この問題に対応する方法としては、上記貢献をした者が、①被相続人の生前に同人と報酬を受ける旨の契約を締結する、②被相続人から遺贈を受ける、③被相続人と養子縁組をする、④特別縁故者の制度を利用する(相続人がいない場合)、⑤準委任契約に基づく報酬請求又は費用償還請求を行う、⑥事務管理に基づく費用償還請求を行う、⑦不当利得返還請求を行う等があり得ます。
しかし、①~③については、当事者間の心情により困難な場合があるとの問題等が、④~⑦については、立証が困難な場合があるとの問題等が指摘されています。
(2)改正の内容
そこで、今回の改正により、相続人以外の親族が被相続人に対して療養看護等の労務の提供による貢献をした場合に、相続人に対して、寄与に応じた金銭(特別寄与料)の請求ができるとの制度が新設されました(新民法1050条1項)。
2 施行日
施行日:2019年7月1日
3 問題点、留意点
(1)要件
ア 請求権者
特別寄与料の請求権者は被相続人の親族に限定されています(新民法1050条1項)。
これは、①請求権者の範囲を限定しないこととすると、相続をめぐる紛争が一層複雑化、長期化するおそれがあること、②被相続人の親族については、被相続人の生前に報酬を受ける旨の契約を締結する等の方法をとることが類型的に困難であるため、請求権を認める必要性が高いこと等によるものとされています。
なお、今後の実務においては、どの時点で被相続人の親族であることが必要かという点が問題になる可能性があります。
この点について、法務省担当者は、被相続人の相続開始時を基準として判断すべきとの見解を示しています。
この点について、法務省担当者は、被相続人の相続開始時を基準として判断すべきとの見解を示しています。
イ 寄与の態様
(ア)「療養看護その他の労務の提供」
特別寄与料の請求権が発生するためには、寄与の態様が「療養看護その他の労務の提供」であることが必要です(新民法1050条1項)。
寄与の態様としては、労務の提供以外にも、財産上の給付等様々なものがあり得ますが、労務の提供以外の態様により寄与をしても本制度の対象にはなりません。
(イ)「無償」
また、療養看護その他の労務の提供は、「無償」であることが必要です(新民法1050条1項)。これは、労務の提供が有償で行われていた場合には、被相続人としても、それ以上に財産を与える意思はないのが通常と考えられること等によるものとされています。
なお、今後の実務においては、被相続人が労務提供をした者に対して一定の財産給付をしているような場合に、労務提供が「無償」といえるかという点が問題になることが予想されます。
この点について、法務省担当者は、①労務の提供が無償かどうかは、労務の提供をした者が被相続人から対価を得たと評価することができるか否かにより判断される、②その際の考慮要素としては、当該財産給付についての当事者の意思や、当該財産給付と労務提供の時期的・量的な対応関係等を考慮することになるとの見解を示しています。
(ウ)「財産の維持又は増加」
さらに、無償の労務提供により被相続人に「財産の維持又は増加」の効果が生じることが必要です(新民法1050条1項)。純粋に精神的な援助しかしていない場合等は、本制度の対象になりません。
(エ)「特別の寄与」
加えて、被相続人の財産の維持又は増加に「特別の寄与」をすることが必要です(新民法1050条1項)。今後の実務においては、どの程度の寄与をすれば「特別の寄与」にあたるかという点が問題になることが予想されます。
なお、寄与分の制度においても、「特別の寄与」(904条の2第1項)が要件とされています。そして、寄与分制度における「特別の寄与」については、「被相続人と相続人との身分関係に基づいて通常期待される程度の寄与を超える寄与が必要である」との理解が一般的です。
しかし、法務省担当者は、特別寄与料の請求権者は相続人ではないため、特別寄与料の制度における「特別の寄与」を寄与分の制度における「特別の寄与」と同様に解釈することは相当でないとの見解を示しています。
(2)効果
ア 特別寄与料請求の手続
特別寄与料の請求は、遺産分割の手続外で行うことができます。
特別寄与料の請求をする場合、第一次的には、当事者間(請求者と相続人間)で協議を行うことが想定されています。当事者間で協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができます(新民法1050条2項)。
イ 特別寄与料の算定方法
特別寄与料の金額は、「特別寄与者の寄与に応じた額」とされ(新民法1050条1項)、家庭裁判所がその金額を算定するに当たっては、「寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他の一切の事情」を考慮することとされています(新民法1050条3項)。
また、特別寄与料の金額については、被相続人が相続開始時において有した財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることができないと定められ(新民法1050条4項)、相続人が相続財産から現に受ける利益の価額が上限とされています。
なお、法務省担当者は、①「その他一切の事情」として、相続債務の額、被相続人による遺言の内容、各相続人の遺留分、特別寄与者が生前に受けた利益等が含まれる、②特別寄与料の金額の具体的算定方法については、概ね、寄与分の制度における寄与分の金額の算定方法と同様の取扱いがされることになるとの見解を示しています。
ウ 相続人が複数いる場合の取扱い
相続人が複数いる場合、特別寄与者は、必ずしも相続人全員に対して特別寄与料の請求をする必要はなく、相続人の一部のみに対して請求をすることもできます。
もっとも、各相続人が負担する金額は、特別寄与料の総額に当該相続人の法定相続分又は指定相続分を乗じた額にとどまります(新民法1050条5項)。このため、特別寄与者が全額の支払いを受けるためには、結局、相続分を有する相続人全員に対して支払いを請求することが必要です。
エ 期間制限
特別寄与者が家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる期間については、「特別寄与者が相続の開始及び相続人を知ったときから6箇月」、「相続開始の時から1年」という制限が設けられています(新民法1050条2項ただし書き)。
なお、法制審議会の資料では、これらの期間制限はいずれも除斥期間であるとされています(部会資料24-2・41頁参照)。